第一章


三、纏絲勁の種類と要点

  太極拳の纏絲勁はその性能により二種類の基本的な纏絲に分けられる。一つ目は手のひらを内側から外側に翻す順纏絲であり、この殆どが掤(ポン)勁である(図1の中の実線で示した部分)。もう一つは手のひらを外側から内側に翻す逆纏絲であり、その殆どが捋(リュー、リー)勁(図1の点線部分)である。この2種類の纏絲は太極拳の動きの全過程に存在し、初めから終わりまで貫かれている。よって、全ての動作の中に棚と捋という二つの勁がお互いに変化しあいながら含まれ、それらは動きの最中では基本的に矛盾しながらも相互が一つに転化する。
 
 この二つの基本の纏絲の下、方向と変換の違いにより、さらに5つの違った方向の纏絲(図4)に分かれる。左右と上下の方向の纏絲が合わさって一つの円と成し、同時に内外を結合させ、平円が立円に変化する。これは太極拳の螺旋運動において必ず備えていなければならない特徴である。次に、練習の時に全てを円滑に運び相手の動きに従うことや節々が連なって貫かれることが周身一家になる為に、大小と進退という二対の方向と纏絲が協調することを以ってして健康と技撃の上での特殊な要求を満たすことができる。よって、太極拳の一つ一つの動作その全てが順逆の基本的な纏絲の基礎の上に成り立っており、少なくとも3対の方向の纏絲が合わさって一つになって行われる運動なのである。この法則さえ掴んでしまえば、弧を描く動作を行う際の一定の根拠とすることができ、太極拳の学習或いはそれぞれの動作の修正等が非常に容易なものとなる。練習の時にもし何かの動作を行う際に力や勁を出しづらい場合、纏絲のうまくいかなポイントで足腰を動かすことにより違和感を解消し、姿勢の矯正を図ることができる。つまり、纏絲勁を掌握することは自分に対する矯正器具を得ることと同じである。以下に具体例を持ってその作用を説明する。

 “雲手”――この動作は、十三勢の中で唯一双順から双逆の左右の大纏絲に変換する拳式である。動く際の両手の基本纏絲は、掌の内側より外側へと廻す順纏絲から、外側より内側への逆纏絲に転換する。方向纏絲は左右と上下、さらに僅かに内側と外側へと動かす。左右と上下は一つの平円であり、もしそこからほんの少しだけ内外に円を描けば空間に曲線を描く立体の円になり、気が背骨に張り付く作用がある。

 “白鶴亮翅”――この動作の基本纏絲は一順一逆であり、動きの中に比較的多くの纏絲が存在する。方向纏絲は左右、上手と内外である。一順一逆である為、左手は内側と下へ向かう逆纏絲であり、右手は外側と上方への順纏絲である。両者が合わさり両腕が互いに結ばれる(①動く際に両腕と肩が一本の紐のようにお互いに繋がっているように。基本的に両腕が固く結ばれていることが維持された状態で、片方の腕が動けばもう片方の腕もそれに従って動く。いいかえれば、両腕の中に終始張り出している掤勁が含まれていることが必要。)とういう要求の下、右上と左下に一つの“右順左逆に分かれる掤圏”となる。

 太極拳の動作には沢山の種類があり、それぞれ独特の動きがあるように見えるが、基本の纏絲から分析を行うとそれらは非常に簡単なことであるということが上の例から知ることができる。全ての動作はおよそ“双順纏絲”,”双逆纏絲”および”一順一逆纏絲”の3種の組み合わせにほかならないのである。もしこの方法にて常々分析と自己の動作における模索をおこない表にまとめれば、自己の練習の根拠とすることができる。このようなものさしがあると、勁の種類の区別が付くようになり、内外相合と節々貫串が達成され、弾性の基礎の上に正確な姿勢を整えることが可能となる。
 
 図4
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